






疫学研究の種類
疫学研究は、信頼度の低い順に
生態学的研究
横断研究
症例対象研究
コホート研究
無作為化比較試験
システマティックレビューメタアナリシス
の6つに分類されます。
それぞれ研究対象や方法が違うのですが、わかりにくい分野でもあります。
ただ、ほぼ毎年出題されている分野でもあるので、特徴をしっかり覚えておきましょう。
研究の手法
まず、研究はその手法によって3つに分けられます。
記述研究、分析研究、介入研究です。
簡単に説明すると、
記述研究は対象者のデータを記述するのみの研究です。
データから推察し、仮説を立てます。
分析研究は、対象者の状態や結果を観察し、仮説が正しいかどうか検証します。
記述研究と分析研究は合わせて観察研究と大きく括られることもあります。
介入研究は対象者に薬を飲んでもらうなど行動・状態に介入し、原因と結果の因果関係について実際に確認します。

それでは具体的な研究の種類を見ていきましょう。
生態学研究
疾病とその原因についての関係性を推測・検討する研究です。
生態学研究は地域相関研究ともいい、集団を対象とするところが特徴です。
例えば、たばこを吸う人と肺がんになっている人に注目してA県とB県を比較します。
A県ではたばこを吸う人が6割で、肺がんになる人が8割でした。
B県ではたばこを吸う人が3割で、肺がんになる人が2割でした。
たばこを吸う人はA県のほうが多く、同じように肺がんもA県のほうが多くなっています。
このことから「たばこを吸う人は肺がんになりやすい」という仮説をたてることができます。
大事なのは、これは単なる仮説だということです。
「たばこを吸うと肺がんになりやすい」ということがわかったわけではなく、
「たばこを吸うと肺がんになりやすいのかもしれない」という仮説を立てただけです。
この研究では因果関係を検証することはできず、その後の調査の方針を決めたりするのに利用することが多いです。
比較的短時間・安価でできることがメリットです。


横断研究
生態学研究と似ていますが、こちらは個人を対象にした研究です。
疾病とその原因について一時点での状態に着目してその関係性を仮定します。
例えば、100人を対象に肥満と朝食摂取のかかわりを調べたとします。
すると、肥満者に朝食を食べない人が多い傾向にあることがわかりました。
ここから、朝食を食べないと肥満になりやすいのでは?という仮説を立てることができます。
こちらも、根拠などないただの傾向なので、生態学研究と同じく仮説をたてるだけです。
横断研究ではある一時点の状態しか見ないということがポイントです。
★印の調査時点で「やせていて朝食を食べる人」に、過去に「痩せていて朝食を食べなかった」期間があるかもしれません。
「太っていて朝食を食べない人」で、これまでずっと朝食を食べていたのに調査の1か月前から朝食を抜き始めた人がいるかもしれません。
それでも、この調査ではある一時点しか調査しません。


このように、過去の状態には注目せず、今の状態だけに絞って調査をするのが一時点ということです。
横断研究では原因と結果を同時に測定する、と言われます。
それは、「この人は肥満だ、そして朝食を食べない」という調査をするということで、
「この人は肥満だ、朝食を食べない生活をずっとしているが少し前まで痩せていた」という調査をしないということです。
一時点にしか着目しません。

比較的短時間・安価ででき、さらに対象について経過を追跡しないですむ点がメリットです。
生態学研究も横断研究も、仮設を立てることしかできず、因果関係を証明できないことがデメリットです。



症例対象研究
疾病を持つ人たち(症例群)と、疾病を持たない人たち(対照群)に分けて、
仮定した疾病の原因を持つか持たないかを過去にさかのぼって調査する方法です。
例えば、「高血圧の人は心筋梗塞になりやすい」という仮説を立てていたとします。
それを立証するために、心筋梗塞の人とそうでない人にわけて、高血圧かどうかを調査します。
心筋梗塞の人の中で60%が高血圧で、心筋梗塞でない人の中で20%が高血圧でした。
因果関係があるように思えます。
ただし、高血圧だから心筋梗塞になったのか、
心筋梗塞になってから高血圧になったのかがわかりません。
さらに、記憶に頼るので本当に以前から高血圧だったのかも確かではありません。
このように、原因と結果の順番がわからないこと、原因に対する信頼性の低さがデメリットです。


対してまれな疾患に向いていること、観察期間が短いことがメリットです。



症例対象研究がまれな疾患に向いているとは…?
100万人に1人の割合で罹患する疾病があったとします。
疾病の原因を仮定して、その原因を持つ人と持たない人100人で疾病を発症するかどうか調査した場合、
誰も発症しない可能性が高いのです。
これでは調査になりません。

すでに疾病を持つ人を調べる症例対象研究は、まれな疾病であっても発症している人を対象にするので
100万人に1人という発症確率が関係なくなっているということです。
100万人に1人の疾患を100人が罹患するのを待つのと、100万人に1人の疾患を持つ人100人を集めるのでは後者が断然楽ですよね?
後者で調査するのが症例対象研究です。
前者で調査するのはこれから解説するコホート研究です。
コホート研究
仮定した疾病の原因を持つ人(曝露群)と持たない人(非曝露群)に分けて
疾病と原因のかかわりについてどうなるかを調べる研究です。
曝露とはさらされる、受けるという意味です。
「喫煙は肺がんのリスクを高める」という仮説を立てたとします。
この場合喫煙者人が疾病の原因を持つ人=曝露群となります。
対象者を喫煙者と非喫煙者に分けるのですが、調査開始時にはどちらのグループに肺がんの人はいません。
これから肺がんになる人を追跡調査します。


未来に向けて調査するので「前向き」コホート研究ということもあります。

症例対象研究では過去のことを思い出して原因を曝露していたかどうか調べるので、
それが本当のことなのか曖昧でした。
コホート研究では今から未来に向けて経過を追うので曝露しているかどうかが確実にわかります。
よって症例対象研究よりも信頼度が高いです。
そのかわり、これから肺がんという結果が出るであろう期間中対象を観察していかなければならないので、時間と費用がかかります。



無作為化比較試験(RCT)
コホート研究では曝露しているか曝露していないかでグループを分けましたが、
この研究ではまずランダムにグループを分けます。
「毎日お酢を飲むと血圧が下がる」という仮説を検証するとします。
ランダムに人を集めて、二つのグループに分けた後、片方のグループにお酢を飲んでもらいます。
お酢を飲む以外の要素はバラバラで、統一されていません。
こうして経過を見ていく研究です。
研究の信頼度は高いですが、時間と費用がかかります。
また、対象者全員にインフォームドコンセントを取る必要があります。
インフォームドコンセントとは、研究について対象者に説明し、同意を得ることです。


この研究では研究者と対象者が、誰がどちらの群に属すか知らないことが望ましいとされています。
お酢と血圧低下の例では知られないことは難しいですが、
薬の効果を知りたい時などは本物の薬を飲む介入群と、
本当は薬ではない偽薬を飲む非介入群で調査します。
対象者はどちらも薬を飲んでいるつもりですし、研究者からはどちらも薬を飲んでいるように見えるため主観が入りにくいです。
ただのラムネを風邪薬だよと言って飲ませると風邪症状が改善したりすることがあります。
これをプラセボ効果ということから、非介入群のことをプラセボ群と呼ぶこともあります。


システマティックレビューメタアナリシス
システマティックレビューとはあるテーマの論文・文献をとにかく検索・収集することで、
メタアナリシスはそれらのデータをまとめて分析することをいいます。
例えば、運動習慣と糖尿病についての論文を集めて内容を検討・取捨選択し、
そこからさらに結論を出す、という感じです。
疫学研究の中で信頼度は最も高いですが、データ収集や解析に時間がかかります。



交絡因子
疫学研究では交絡因子という言葉が出てきます。
交絡因子とは、調べようとしている原因以外にある疾病の原因です。
パチンコをする人に肺がん患者が多いという結果が出たとします。
実は、パチンコ自体が肺がんのリスクとなったわけではなく、
パチンコをする人に喫煙者が多いことで、パチンコをする人に肺がん患者が多いように見えたというわけです。
この場合交絡因子は喫煙になります。
パチンコと肺がんの関係を調べようと思ったら、パチンコと喫煙に関わりがあったため、
パチンコと肺がんの純粋な関係がわからなかった、ということです。
パチンコ自体に肺がんになるようなリスクはありませんよね。
でも喫煙という交絡因子のせいでリスクがあるように見えてしまいました。
このように、交絡因子は研究の結果に影響してきます。
交絡因子がないか事前に検討したり、対象集団を限定することで交絡因子の影響を少なくします。


交絡因子の影響を受ける研究に生態学的研究と症例対象研究があげられます。
まとめ


生態学的研究
メリットは短時間、安価でできること
横断研究
メリットは短時間、安価でできること
ある一時点についてのみ、着目する
症例対象研究
デメリットは原因と結果の因果関係がわからないこと、信頼度が低いこと
メリットはまれな疾患に向いていて、観察時間が短いこと
コホート研究
デメリットは時間と費用がかかること
メリットは信頼度が高いこと
無作為化比較試験
インフォームドコンセントが必要
デメリットは時間と費用がかかること
メリットは信頼度が高いこと
システマティックレビューメタアナリシス
デメリットは時間がかかること
メリットは信頼度が高いこと